12月のコラム
アルコールを毒薬にするか妙薬にするか


 アルコールを飲む機会が多い季節です。酒は心身をリラックスさせて疲労を回復し、まさに「百薬の長」になりますが、ひとつ間違えると「命を削る毒の水」にもなりかねません。ご注意を!

○赤ワインはほんとうに体にいいのか?
 以前、赤ワインが健康にいいと、我が国でもブームになりました。ヨーロッパで行われた調査で、赤ワインを飲んでいる人に心臓病が少ないという結果が出たからです。赤ワインに含まれるポリフェノールという成分に、血が固まるのを防ぐ作用があり、血の固まり(血栓)が原因になる心筋梗塞を予防するというのです。更に抗酸化作用もあって、動脈硬化やガンの予防にも役立つとされています。
 では、この人たちがどれくらいの量の赤ワインを飲んでいるかというと、1日に600cc、ボトル1本弱です。アルコール量で日本酒に換算すると、約3合です。これではアルコールによるほかの害のほうが心配になります。ちなみに、フランスをはじめとする西欧諸国では肝硬変が多いのですが、これはワインをたくさん飲むためといわれています。
 なお、我が国も肝硬変は少なくないのですが、これはB型とC型のウイルス肝炎からくるものがほとんどです。そして、ウイルス肝炎の人がアルコールを飲むと、病気の進行が早まり、肝硬変や肝臓ガンになりやすいことがわかっています。

○やはり適量はビール1本、日本酒にして1合
 アメリカでの調査によると、ビール大びん1本くらいのアルコールを飲む習慣のある人は、飲まない人よりも心臓病が少ないといいます。その理由としては、ストレス解消の効果がある、血管が拡張して血液循環がよくなり動脈硬化を予防する、などがいわれています。しかし、それよりも多く飲むと、また心臓病が多くなります。
ビール1本のアルコール量をほかのお酒で換算すると次のようになります。
日本酒........1合
ウイスキー..水割りダブル1杯
焼酎...........お湯割りコップ1杯
ワイン........ボトル4分の1本
 心臓病予防のためには、これ以上、飲み過ぎない注意がたいせつなのです。肝臓障害やアルコール依存症(いわゆるアルコール中毒)、あるいはアルコールによる脳障害を予防するためにも、この限度を守りたいものです。
 千葉大学での研究で、呑ん兵衛には恐ろしい調査結果が出されています。脳というのは、だれでも年齢とともに萎縮してくるのですが、日本酒にして2合以上のアルコール飲料を毎日飲んでいる人は、脳の萎縮が早くなるというのです。ちなみに、1合以内であれば、それ以下の人と変わりありませんでした。

○飲み過ぎてしまったときの次善の策
 「わかっちゃいるけど、やめられない」のがアルコールの魔力です。「酒のない国に行きたい二日酔い」という川柳がありますが、それに付け句がありまして「着いたらすぐに帰りたくなり」となってしまいます。
 アルコールをたくさん飲んだときには、あとで水分補給を十分にしておきましょう。アルコールには利尿作用がありますから、水分がおしっこに出て、体は脱水状態になりがちだからです。その結果、血液が濃くなって固まりやすくなり、それが心筋梗塞や脳卒中の原因になることがあります。酔いざましに、朝湯やサウナに入る人がいますが、その前に、十分水分補給をしておいてください。
 二日酔い予防にいいといわれる薬品や健康食品があります。ゴマの抽出物、カキのエキス、サバのエキス、漢方ドリンク、ウコンのエキスなどなどです。これらの多くは、肝機能を高めアルコールの分解を早める作用があるようです。飲み過ぎてしまったときに用いるのは結構ですが、飲む前から使用すると、アルコールがすばやく分解されるので酔いにくくなり、そのために飲み過ぎる危険があります。昔からいわれるように、果物は酔いざましに適しています。水分が補給されるし、含まれている果糖やビタミンに、アルコールの分解を促進する働きがあるのです。
 たいせつなのは二日酔いになるほど飲まないこと、適量を、楽しく、つまみを食べながら飲んで、できれば週2日の休肝日をもうける、などの注意を守ってください。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎