11月のコラム
おならで分かるあなたの健康


○腸内には善玉菌と悪玉菌が住んでいる
 私たちの腸の中には、100種類、100兆個もの細菌が住んでいます。これを腸内細菌と呼びますが、善玉菌と悪玉菌とに大別することができます。
 赤ちゃんや健康な人のおなかには善玉菌が多いのですが、年齢とともに悪玉菌が増えますし、体調をくずしたり、偏りのある食生活をしていると、悪玉菌が多くなります。悪玉菌はタンパク質をエサにしていて、それを分解したとき、アンモニア、アミン、硫化水素、メルカプタン、インドールなどの有害物質を作ります。これらの物質は、大腸ガンを発生させるほか、血液に入って全身をめぐり、いろいろな悪さをすると考えられます。
 例えば肝硬変で肝臓の働きが著しく低下している人は、分解が間に合わなくてアンモニアが血液中に増え、それが脳を障害して昏睡におちいることもあります。

○大腸ガンや乳ガンは腸の不健康が原因になる
 近年、我が国では大腸ガンが増加の一途をたどっています。もともと大腸ガンは日本に少なく欧米諸国に多かったのですが、その理由は肉食を中心にした食生活にあり、我が国も食事が欧米化して、大腸ガンを増やす重要な原因になっています。肉類をたくさん食べるために、腸内の悪玉菌が増え、有害物質がたくさん作られるためです。
 また、欧米人は脂肪の摂取が多いものですから、脂肪の消化を助ける胆汁酸がたくさん分泌されます。その胆汁酸が悪玉菌に分解されて、二次胆汁酸という強力な発ガン物質を生じますが、これも大腸ガンを増やす一因と考えられます。
 さらに、文明の進歩とともに、精製された食品をたくさん食べるようになり、食物繊維の取りかたが少なくなりました。その結果、便秘をするようになり、有害物質が長く腸にとどまるため、大腸ガンが発生しやすくなるのです。
 ところで、アメリカのカリフォルニア大学での調査によると、乳ガンの女性を調べると、便秘症の人が圧倒的に多いという結果が出ています。くわしい原因は分かりませんが、便秘をすると悪玉菌が作る有害物質が腸内に長くとどまるため、それが吸収されて乳ガンの発生の一因になるのではないかと考えられています。

○腸の健康はいろいろな病気を左右する
 狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などが、我が国に増加している主な原因は、肉類を多く食べるようになったことにあります。そのため動物脂肪の摂取がふえ、血液中のコレステロールが増加し、それが血管壁にたまって動脈硬化を進行させているのです。しかし、食物繊維を十分にとって、腸を健康に保てば、これらの生活習慣病もかなり予防できます。
 まず、食物繊維は余分なコレステロールをいっしょに排泄させる働きがあり、血液中のコレステロールを減らして動脈硬化の予防に役立ちます。また、食物繊維は善玉菌のえさになりますから、善玉菌を増やして悪玉菌を追い払ってくれます。悪玉菌の作る有害物質も少なくなり、その害を予防できます。
 このほか、腸の不健康はいろいろな病気や不快症状の原因になります。痔、高血圧、アレルギー病(ぜんそく、じんま疹、アトピー性皮膚炎、花粉症など)、大腸憩室、胆石症、膀胱炎、腹痛や腹鳴、自律神経失調症(頭痛、肩こり、腰痛、不眠、イライラ、冷え症、疲れやすいなど)、皮膚のトラブル(にきび、肌あれ、吹き出もの、しみなど)を引き起こす一因になるといわれています。

○オナラで分かる腸の健康
 オナラの成分を分析研究したのは、アメリカ航空宇宙局(NASA)です。なぜかというと、宇宙船に乗った飛行士が発するガスのために、火災や爆発が起こったり、中毒になったりすることはないかを調べるためだったのです。
 余談はさておき、その研究の結果、オナラの臭いの原因になるのは、アンモニア、硫化水素、インドール、スカトール、揮発性アミンなど、悪玉菌が作る有害物質であることが分かりました。一方の善玉菌は、臭いのある成分を全く作らないのです。ですから、オナラやウンコに悪臭のあるときは、悪玉菌が繁殖していて、腸が不健康な状態であることを示しているのです。
 腸の健康のためには、野菜、果物、海藻、きのこ、いも、豆などを食べて、食物繊維を十分に取り、便秘をしないことです。そして、肉類も取りすぎないようにしましょう。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎