8月のコラム
疲れをとり健康になる入浴法


○入浴の4つの効果
 一日の仕事をすませたあとの入浴は、その日の疲れを回復させ、明日への英気を養ってくれます。しかし、入浴の仕方をひとつ間違えると、かえって疲労をためてしまったり、病気に悪影響をおよぼすことにもなりかねません。じょうずに疲労を回復し、病気の改善にも効果があり、健康増進に役立つ入浴法についてお話ししましょう。 入浴の効果としては、次の4つが考えられます。
(1)皮膚の汚れをきれいにする
(2)温熱刺激によって身体機能を高める
(3)水の圧力を利用して呼吸機能などを高める
(4)浮力と水の抵抗を利用して足腰の強化に役立つ

○肉体疲労には熱い湯、精神疲労にはぬるい湯
 体の疲れを回復するには熱めのお湯に入るのがいいと昔から言われていますが、このことは実験でも明らかにされています。お風呂の温度をかえて入浴させ、体にたまっている疲労物質の乳酸が減っていく時間を調べると、43-44度くらいがいちばん早く処理されることがわかりました。肉体労働をしたとか、長距離を歩いたとかで、体が疲れた(筋肉疲労)ときには、43-44度くらいのやや熱めのお湯に入り、全身の血液循環がよくなるまで温まるのがいいのです。ただし、血圧の高い人や心臓病のある人は、こうした熱い湯は危険ですから、40度くらいのぬるめのお湯にゆっくり入ればよく、時間はかかりますが同様に疲労は回復します。
 これに対して、精神的な疲れを回復させるには、40度くらいのぬるめのお湯で、ゆっくり温まるのが原則です。私たちの体の働きは、交感神経と副交感神経という2つの自律神経で支配されていて、交感神経は心身を活動的にし、副交感神経は心身を休めてエネルギーを貯えるように働きます。ぬるい湯に入ると、私たちの体は副交感神経が優位になりますから、心身ともに緊張がほぐれ、精神疲労も回復しやすくなるのです。
 その昔、江戸っ子は朝湯で熱い湯に短時間つかって、仕事にとりかかりました。これは、眠っているあいだ働いていた副交感神経を、昼間おもに働く交感神経に切り換える効果があり、心身を目覚めさせるのに役立っていたと思われます。現代でも、朝シャワーを浴びるときには、やや熱めの湯にして、心身をスッキリと目覚めさせるといいでしょう。

○病気を改善する入浴の仕方
 高血圧や心臓病の人は、40度くらいのぬるめのお湯に入浴する注意がたいせつです。熱いお湯に入ると血管がキュッと収縮して、血圧が一気に上昇します。また、お湯の圧力で血管が圧迫されますから、さらにまた血圧を上げます。心臓にも負担がかかります。ですから、熱い湯にドボンと入ったりすれば、脳卒中や心筋梗塞の危険も生じます。ぬるめのお湯にゆったりつかっていれば、血管が拡張して全身の血液の流れがスムーズになり、血圧が下がってきますし、心臓への負担も軽くなります。病気の改善にも役立ちます。
 入浴は運動不足や肥満の解消にも効果があります。この場合には43度以上の熱めの湯に入ります。3-4分して汗がでてきたら、上がって2-3分休み、汗が引いてきたらまた湯船に入るということを、2-3回繰り返します。熱い湯に入ると呼吸もはやくなり、軽いランニングをしたのと同様の効果があります。当然、エネルギーを消費し体脂肪を燃やしますから、減量にも役立ちます。また、水圧で胸を圧迫されている中で呼吸をしますから、呼吸筋を鍛えることにもなり、呼吸機能を強化することができます。
 高血圧や心臓病のほか、肩凝り、腰痛、膝痛、神経痛なども、ぬるめ(40度前後)の湯にゆっくり入るのが好適です。こうした痛みはしばしば筋肉の過緊張が一因になっているので、ぬるめのお湯で筋肉の緊張をほぐすと、痛みもやわらぎます。とくに膝痛や腰痛などは、温まりながら足腰を動かすと、浮力があるので体重の負担をかけずに筋肉を強化でき、病気の改善に効果があります。
 一方、低血圧、自律神経失調症、胃・十二指腸潰瘍、胃酸過多などは、43度以上の熱い湯が適しています。汗をかくことで自律神経の働きが調整されます。また、2-3分温まったら上がって、冷たく感じるくらいのシャワーを浴び、また温まるということを繰り返すと、自律神経は強制的に温・冷の刺激に対応させられますから、それによってその働きが調整されるのです。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎