7月のコラム
夏の事故と夏バテを予防する生活術


○気温が33度を超えると死亡率は上昇する
 「気温と死亡率」の関係を調べた調査によると、1日の最高気温が8度未満になると死亡率が高くなり、逆に最高気温が33度を超えるとまた死亡率が上昇するという結果が出ています。暑さによって死亡率が高まる理由としては、次のようなことが考えられます。
(1)汗をたくさんかくために、血液が濃くなって固まりやすくなり、それが血管を詰まらせて脳梗塞や心筋梗塞を起こす。
(2)水分の補給が追いつかなくて、熱中症(いわゆる日射病や熱射病)を起こす。
(3)暑さのために食欲不振、睡眠不足、発汗による体力の消耗などで、体力が低下する。
(4)冷房の中に入る、冷えた飲料を飲むなど、急な温度変化が心臓発作や脳卒中などの引き金になる。
こうした病気や事故を予防するにはどうしたらいいでしょうか。

○水分の補給をおこたりなく
 故小渕前首相を襲った、あの脳梗塞という病気は、夏の朝方によく起こることがわかっています。一晩眠っているあいだにおよそコップ一杯の汗をかくと言いますが、寝ているあいだは水分の補給をしないために、朝には血液が濃くなって固まりやすくなり、固まった血(血栓)が脳の血管を詰まらせ脳梗塞を起こすのです。この危険は、血栓によって起こる心筋梗塞でも肺血栓でも同じです。
 夜中にトイレに起きるのがいやだからと、寝る前に水分摂取をひかえるのはいけません。床につく少し前に(直前ではないほうがいい)、あたたかい飲み物を一杯飲んでおくといいのです。また、大酒を飲んだ翌朝は脱水状態になって脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすいので、「酔い覚めの水」を十分にとっておきましょう。
 暑い日のジョギング、ゴルフ、テニス、ハイキング、海水浴などは、たくさん汗をかきますから、水分の補給を十分にしてください。夏のマラソン大会やゴルフ場で、脱水状態で倒れたり、そのまま心不全で亡くなる例がしばしば見られます。終わったあとのビールをたのしみに、渇きをがまんするのはまさに自殺行為です。夏の運動は、なるべく朝の涼しい時間や、夕方になって気温が下がってきてからにしたいものです。
 海水浴は、中年になったら、太陽に素肌をさらす時間をできるだけ少なくしましょう。日焼けすると皮膚に炎症を起こして、体力を消耗させます。紫外線にあたると、動脈硬化や老化を進める元凶物質とされる過酸化脂質をふやすことにもなります。

○クーラーは使い方ひとつで毒にも薬にも
 両手を氷水につけるだけで血圧は急上昇するという、有名な実験があります。つまり、冷たい刺激が体の一部分にくわわるだけで、血圧は一気に上昇するのです。ですから、暑い屋外から入ってきて、いきなりクーラーの冷たい風にあたるのはとても危険です。湯上がりに冷たい水を浴びるとか、冷たい飲み物を一気に飲むなども同様です。血圧が急上昇して、脳卒中や心臓発作を起こす例は少なくありません。中高年の人、とくに高血圧や心臓病のある人は注意が必要です。
 クーラーの冷やしすぎは冷房病の原因になります。冷房病になると、次のような障害を起こします。末梢循環障害(手や足がしびれたり痛くなったりして、動きが不自由になる)、過敏性腸症候群(慢性的に下痢をしたり、下痢と便秘を繰り返し、ときどき腹痛を起こす)、頸肩腕症候群(肩や首のこりがひどくなる、肩や腕がしびれたり痛くなる、手足の関節がこわばって動かしにくくなるなど)、自立神経失調症(めまい、立ちくらみ、ほてり、手足や腰の冷え、腰痛、疲れやすい、女性では生理痛や生理不順など)、筋緊張性頭痛(肩こりがひどくなり、頭痛を起こす)、病気を悪化させる(高血圧、高脂血症、糖尿病などを悪化させ、脳卒中や心臓発作の引き金になる)などです。
 これを予防するには、冷房の中では、一枚余分に羽織る、ひざかけをする、ソックスをはくなどの対策が必要です。何よりも冷やしすぎないことがたいせつで、クーラーをつけたときの室温は、外気の温度の5度以内にとどめるのが原則です。
 冷房もじょうずに使えば、夏バテ予防や健康増進に役立てることができます。暑さは食欲を減退させることで体力を失わせ、熟睡できないことで疲労をためてしまいます。室温を適度に下げ、食欲を増進し、睡眠を十分とるようにして、今年の夏を元気に過ごしてください。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎