6月のコラム
動脈硬化とコレステロールの危険な関係


○日本人に動脈硬化が増えている
 日本人の死因の1位はガン、2位心臓病、3位脳卒中です。このうち、心臓病と脳卒中は動脈硬化が原因になりますが、この2つを合計すると30%を占め、日本人10人のうち3人は動脈硬化が原因で亡くなっていると言えます。たとえ心臓病や脳卒中で助かったとしても、半身不随などの後遺症のために生活が不自由になる例が少なくありません。
 動脈硬化はこのほか、日本人に増加している大動脈瘤や肺塞栓など、急死を招く原因になります。さらに、ボケの原因にもなりますし、眼底出血を起こして失明したり、足の壊疽のために歩行が不自由になることもあります。「人間は血管から老いる」といわれるように、血管の老化現象である動脈硬化が全身の老化の重要な原因になるのです。心身ともに若々しく健康に長生きするためには、動脈硬化を予防することが大切です。
 動脈硬化にもいくつかの種類がありますが、いま問題になっているのはアテローム硬化(粥状硬化)です。これは血管の壁に脂肪などがたまって、血液の通り道を狭くしたり、詰まらせたりするものです。心臓の血管で起これば狭心症や心筋梗塞、脳の血管で起これば脳梗塞となります。脳の細い小さな血管で脳梗塞が起こっても(微小脳梗塞)症状はほとんどありませんが、これが何か所かで発生するとボケの原因になります。

○コレステロールは体に必要不可欠のもの
 さて、動脈硬化を進める重要な原因としてコレステロールがあげられます。コレステロールは悪者のようにいわれますが、実は体にとって必要不可欠な物質なのです。コレステロールは、
(1)細胞膜を構成する材料になる、
(2)ホルモンの材料になる、
(3)胆汁の材料になるなど、重要な働きをしています。ですから、食事からとり入れた脂肪分を材料にして、肝臓で作り、全身に配っているのです。
 ところで、コレステロールというのは脂質ですから、血液という水の中では、水と油で分離してしまいます。そこで、コレステロールなどの脂質はタンパク質のカプセルに詰められて、血液中を運ばれていきます。このカプセルをリポタンパクと言います。
 リポタンパクにはいくつかの種類がありますが、肝臓で作られたコレステロールを全身に配達するのがLDL(低比重リポタンパク)であり、余分なコレステロールを回収して、肝臓に持ち帰るのがHDL(高比重リポタンパク)です。このLDLを悪玉コレステロール、HDLを善玉コレステロールといいます。なぜかというと、LDLが多すぎると全身に配られるコレステロールが余分になり、それが血管壁にたまって動脈硬化を進めるから悪玉なのです。それに対してHDLは、余分なコレステロールを回収してくるので、血管壁にたまるコレステロールが少なくなり、動脈硬化を予防するので、善玉と呼ばれます。健康診断などの血液検査で、たとえ総コレステロールが高めであっても、HDLの値が高ければ心配はいりません。むしろHDLがとくに高いと長寿症候群といわれ、その人たちに長寿者の多いことが明らかにされています。

○悪玉コレステロールを減らし動脈硬化を防ぐために
 肝臓に回収されたコレステロールからは胆汁が作られ、十二指腸に分泌されます。胆汁が消化液としての仕事を終わると、そこに含まれるコレステロールは、また小腸から吸収されて再利用されます。このとき、食事として食物繊維をたくさんとっていると、胆汁に含まれているコレステロールを吸着して、いっしょに便として排泄してしまいます。コレステロールの高い人が食物繊維をたくさんとるといいといわれるのは、このためです。
 体内のコレステロールの約9割は、食事で食べた脂質を材料にして作られます。特に動物脂肪をとるとコレステロールの産生が増えますから、これを含んだ牛肉や豚肉はとりすぎないように気をつけたいものです。植物性の油や魚の油は、コレステロールの材料になりにくく、むしろ、善玉コレステロールを増やす働きがあるので、動脈硬化の予防のためには多めにとるのがいいのです。
 食品に含まれるコレステロールは1割くらいですから、それほど心配はいらないのですが、高脂血症といわれた人は、コレステロールのたくさん含まれている卵類やレバーを控えるようにしましょう。このほか、適度な運動は善玉コレステロールを増やすことが明らかにされています。また、動脈硬化を予防する注意としては、タバコを止める、ストレスをためない、過労や暴飲暴食をしないなども大切です。
 高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症の4つの病気が重なると「死の四重奏」といわれます。これらの病気は、動脈硬化を進めて心臓病や脳卒中で死にいたる危険が高いので、きちんと治療しコントロールしておくことが肝心です。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎