1月のコラム
笑う門には健康がやってくる


○笑いは心身の緊張をほぐし英気を養う
 授業中にヘラヘラと笑っていると、教師に叱られたものです。仕事中にニヤニヤしていると、上司に注意されます。スポーツ選手が失敗をしたときに、照れ笑いをいつまでもつづけていると、ファンから叱責を受けることになります。
 真剣に勉強をしたり、仕事をしたり、勝負をしているときには、緊張が必要ですから、笑っていたのでは勉強や仕事の能率があがりませんし、いいプレイもできません。笑いは心身の緊張をゆるめてしまうからです。しかし、仕事や勉強で緊張がつづいたときには、ひと笑いすると心身の緊張がほぐれて疲れが回復し、次の仕事の能率があがります。笑ってばかりいたのではダメですが、緊張の合間にときどき笑いをいれることは、とても大切なのです。
 新人投手がピンチをむかえたとき、ベテラン選手が近づいてエッチなことを言って笑わせたりしますが、これは過度の緊張をほぐして、持っている能力を出させる効果があります。仕事中でも、人と接しているときには笑顔がたいせつですが、これは相手に対する信頼感を表すものなのです。
 以前に「休養」というのは、文字どおりに「休む」とともに「養う」ことがたいせつであるとお話ししましたが、「笑い」というのは、緊張をほぐして心身を休ませるとともに、次なる仕事や戦いのための英気を養うエネルギー源にもなるのです。

○笑いは免疫力を高めガンを予防する
 倉敷市・柴田病院の伊丹仁明先生は、ボランティアの人19人を「なんばグランド花月」へ連れていき、3時間にわたって漫才や喜劇で大いに笑ってもらいました。そして、その前とあとに血液を採って、免疫力の変化を調べました。その結果、ナチュラルキラー細胞といって、ガン細胞をも食い殺す働きのある免疫細胞の働きが、多くの人で強化されていることがわかりました。とくに、その値の低かった人たちが上昇していました。つまり、笑うことで、免疫力が高まり、ガン予防にも役立つことが証明されたのです。
 同時に、免疫を抑える作用のサブレッサーT細胞と、免疫を強化するヘルパーT細胞の比率も調べました。ヘルパーT細胞の比率が低すぎると免疫力が低下してガンになりやすいし、高すぎると免疫異常によって起こる、リウマチなどや膠原病になりやすいことがわかっています。調査の結果、3時間の笑いのあと、この比率の低い人は上昇し、高い人は下がって、いずれも標準の範囲に入ったり近づいたりしていました。つまり、笑いには免疫力を調整する効果があり、免疫力を高めてガンや感染症を予防するとともに、高まりすぎたために起こる免疫異常による病気の予防や改善にも役立つと考えられるのです。

○笑いは痛みを和らげる特効薬
 日本医大整形外科の吉野槙一教授は、慢性関節リウマチ患者に落語を聞かせて、その効果を調べています。慢性関節リウマチというのは、手や脚の関節が痛み、とてもつらい病気です。吉野教授はたくさんの患者を見ていて、よく笑う人は比較的痛みを訴えることが少ないという事実に気づき、落語家の柳家木久蔵師匠を呼んで、約1時間、患者を大いに笑わせてもらったのです。その前後に患者の血液を採って調べたところ、痛みの炎症の強さを示す物質の値が、明らかに下がっていました。また、すべての患者が、落語を聞いたあと痛みが和らいだと言いますし、中にはその効果が3週間も持続した人もいました。
 吉野教授は「たった1時間で、これほどリウマチによく効く薬はほかにはない」と言っています。そして、木久蔵師匠のいわく、「落語はキクゾー」。笑いの効果は以前から言われています。笑えば心身がリラックスして、ストレス解消に役立ちます。喜びや楽しさ、笑いなどの好ましい感情の動きは、ホルモンの分泌や自律神経の働きを順調にします。血液循環もよくなりますから、高血圧や動脈硬化を予防・改善し、心臓病や脳卒中を未然に防ぎます。脳を活性化してボケ予防にも役立ちます。腹の底から笑えば、呼吸機能も高まりますし、お腹や背中の筋肉を強化します。そしてさらに、ガン予防や、カゼなどの感染症の予防、免疫疾患の予防や改善、リウマチなどの痛みの軽減に役立つことが明らかにされました。
 同じ笑いでも、愛想笑いや苦笑い、照れ笑いではなく、腹の底からアッハッハ....と笑ってください。ことわざに「笑う門には福きたる」とありますが、まさしくそのとおりで、健康も笑いとともにやってくるのです。今年も、一生けんめい働くとともに、大いに笑ってすごしましょう。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎