7月のコラム
「高血圧」と「高脂血症」を予防するのが老化防止の秘訣


○血管老化の元凶は高血圧と高脂血症
 いま医療機関で治療を受けている人の病気の中で、いちばん多いのはダントツで高血圧です。その数は約750万人と推定され、日本人のおよそ17人に1人は高血圧であり、年齢が上がればその率はさらに高くなります。一方、高脂血症の患者は約97万人とされますが、虚血性心疾患や脳卒中で治療を受けている人の多くは、背景に高脂血症を持っていますから、その数は400万-500万人にのぼるものと考えられます。
 高血圧や高脂血症はサイレントキラーといわれます。つまり、高血圧にしても高脂血症にしてもほとんど症状がありませんが、この病気が続くと知らないうちに血管や心臓に障害が起こり、やがては心筋梗塞や脳卒中などを起こして死に至るからです。音もなく忍び寄る殺し屋というわけです。
 日本人の死因の第1位はガンで約30%を占めます。第2位と第3位は心臓病と脳卒中で、合計すると30%を超えます。つまり、日本人の3人に1人は心臓病や脳卒中で亡くなっているわけで、その重要な原因となっているのが高血圧と高脂血症なのです。

○高血圧は知らないうちに血管を傷つけている
 高血圧には他の病気が原因で起こる二次性高血圧と、そうした原因がないのに中高年になってはじまる本態性高血圧とがあります。高血圧患者のほとんどが後者です。本態性高血圧の原因ははっきりしていませんが、年齢とともに血管の弾力が失われたり、よごれがたまって血管の中の血液の通り道がせまくなるためと考えられています。
 高血圧の第一の害は、絶えず強い圧力がかかるために、血管を傷めることです。前号でお話ししたように、脳の血管を傷つけ血管が破れると、脳出血を起こします。腎臓の血管を傷め、腎臓病の原因にもなります。また、血管が傷つくと、そこにコレステロールなどがたまって血液の通り道を細くします(動脈硬化)。その結果、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こします。
 高血圧のもう1つの害は、心臓を傷めることです。高血圧のために絶えず強い力で血液を押し出していると、心臓の筋肉が、古くなったゴム風船のようにのびきった状態になり、血液を十分に送りだす力がなくなってしまうのです(心不全)。高血圧であることがわかっても、よほど血圧が高い場合をのぞいて、すぐ降圧剤を投与するわけではありません。まずは生活指導を行います。塩を減らす、太りすぎを解消する、不摂生や過労をさけ睡眠と休養を十分にとる、ストレスをためない、運動不足にならない等です。それでも、まだ血圧が十分に下がらないときにはじめて降圧剤を服用することになります。

○高脂血症は血管を詰まらせる
 血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪など)が多くなりすぎた状態を高脂血症といいます。とくに血液中のコレステロールが増えすぎると、それが血管壁にたまって血液の通り道をせまくします(動脈硬化)。心臓の筋肉に血液を供給する冠状動脈で動脈硬化が進行すると、狭心症や心筋梗塞を起こします。脳の血管でこれが進行すると、脳梗塞を起こしたり、ボケの原因になります。
 高脂血症を予防し改善するには、やはり食事をはじめとする日常生活の注意が大切です。牛肉や豚肉、バターなどの動物脂肪をとりすぎない、肥満を解消する、植物油や魚の油を多めにとる、野菜類をたくさんとる、適度に運動をする、過労をさける、精神的ストレスを解消するなどです。これらを実行しても高脂血症が続くときには、最近は良い薬が開発されていますから、それを服用することになります。

○長寿の秘訣は血管を若くたもつこと
 「人間は血管から老いる」といわれます。血管がもろく破れやすくなったり、詰まって血液の流れが不十分になるために、体や脳の老化は進むし、心臓発作や脳卒中などの病気を引き起こすのです。血管を傷める最大の原因は高血圧と高脂血症ですから、これを予防し改善することが、血管の老化、さらには全身の老化や病気を防ぐことになるのです。
 高血圧も高脂血症も、毎日の生活が重要な原因になる生活習慣病です。食生活をはじめとする日常生活をもう一度チェックして予防を心がけるとともに、定期的に健康診断や人間ドックを受診して早期発見につとめましょう。もしも病気がはじまっていたら、それを進行させないように生活を管理し、きちんと治療を受けてください。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎