5月のコラム
いま日本人に急増している「糖尿病」の問題点


○糖尿病は21世紀の国民病である
 まず下記の我が国の糖尿病患者の増加を示すグラフをご覧下さい。この30年間に確実に3倍にふえています。そしてさらに増加しているのです。 1998年3月に発表された「糖尿病実態調査」によれば、「糖尿病が強く疑われる人」は690万人、それに「糖尿病の可能性を否定できない人」をくわえると、1,370万人にもなるという結果が出ています。日本人の9人に1人、40歳以上では5人に1人が糖尿病患者ないしはその可能性をもっているのです。
 同調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」のうち、治療を受けている人は45%にすぎず、健康診断で糖尿病であることを指摘されたにもかかわらず、治療を受けなかったり中断してしまった人が28%もいるのです。そして、健康診断を受けていない人が14%、受けたにもかかわらず「異常なし」と言われた人が22%もいます。 これらの調査から浮かび上がってくる問題点を考えてみましょう。

○どうして日本人に糖尿病が増えているのか?
 糖尿病は、インスリンというホルモンの分泌不足、あるいは働きが不十分なために起こります。インスリンは血液中のブドウ糖を、細胞の中に送り込む働きをしていますから、これが十分働いてくれないと、血液中のブドウ糖がふえて高血糖という状態になり、それが持続するのが糖尿病です。最近は「インスリン抵抗性」と言って、細胞に原因があってブドウ糖を取り込めなくなるケースも問題視されています。
 糖尿病のいちばんの原因は肥満であると言われます。たくさん食べて肥っていると、どうしても血液中のブドウ糖が多くなります。その状態が持続すると、いつのまにか体のほうは血糖の高いのが正常であると思い込んでしまい、インスリンの分泌が減ったり働かなくなったりするのです。 最近は、ストレスも糖尿病の重要な原因と言われています。ストレスがかかった状態というのは、体が活動している状態ですから、そのエネルギー源としてたえず血液中にブドウ糖を供給しています。 つまり、高血糖状態を持続しているので、肥満の場合と同様のことになるのです。もう1つ、遺伝的素因も重要です。肉親に糖尿病患者のいる人は注意して下さい。

○なぜきちんと治療を受けないのか?
 糖尿病の初期はほとんど症状がありません。病気が進行すると、のどが渇く、水をたくさん飲む、尿が多くなる、尿に甘酸っぱいにおいがする、疲れやすくなる、やせてくる、皮膚がかゆい、できものが治りにくい、などの症状がでてきます。とはいえ、症状がなかったり、症状が軽いものですから、それに比べれば、糖尿病治療に必要な食事制限のほうがつらいと感じたりして、治療を受けない人が多いものと考えられます。
 もう1つ重要なのは、糖尿病そのものよりも、糖尿病に伴って起こってくる、次のような合併症のこわさを認識していないこともあります。
(1)網膜症....目の奥の血管が障害され、失明の原因になります。
(2)腎症....腎臓の血管が傷み、高血圧の原因になるし、尿毒症から死にいたります。
(3)神経障害....しびれ、神経痛、筋肉のまひ、知覚障害、下痢、便秘、排尿障害、インポテンツなどを起こします。
(4)動脈硬化症....動脈硬化を進め、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、ボケなどを起こします。
(5)感染症....膀胱炎、腎盂腎炎、歯槽膿漏、おでき、外陰炎、肺炎などを起こしやすくなります。

○健康診断を受けていても見落とされるのはなぜ?
 健康診断では空腹時に血液を採取して調べますが、糖尿病でも軽いうちは、おなかがすいてくると血糖もさがってくるので、正常とでてしまうのです。最近は、血液検査のときに、ヘモグロビンAICを調べることで発見できるようになっています。正確に調べるには、ブドウ糖経口負荷試験(O-GGT)といって、ブドウ糖を溶いた水を飲み、時間をおいて血液を採取して血糖を測定する検査が必要です。
 糖尿病は生活習慣病のなかでももっとも多く、他の生活習慣病をすすめるやっかいな病気です。定期的に健康診断を受けるとともに、ときどきは人間ドックなどで専門的な検査を受け、早期発見・早期治療につとめていただきたいと思います。

糖尿病患者の受療率の年次推移
  糖尿病患者の受療率の年次推移

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎