○ストレスとは体に生じるゆがみ
ストレスとは、何か刺激が加えられたために「生体に生じるゆがみ」です。例えば、山道でイノシシに出会ったとします。心臓はドキドキ、顔が火照って、手のひらや足の裏に汗が出てきます。この場面では、走って逃げるか、木に登るか、あるいは戦うしか方法はありません。そこで、私たちの体は、すぐに活動できるように、心臓をドキドキさせて血液の流れを速くして、酸素と栄養をすばやく供給するのです。棒をもって戦ったり、木に登ったりするとき、手がすべらないように汗が出てくるのです。
さいわい、イノシシは回れ右をして、走り去って行きました。ほっとして、心臓の動悸はおさまりますし、手の汗もひいていきます。ところが、またイノシシが出てきたらどうしよう、今度はクマが出るかもしれないなどと考えると、心臓のドキドキはおさまらず、手の汗も出たままです。このように、もうその必要がなくなっているのに、ドキドキや手の汗が続いている状態が、体のゆがみでありストレスなのです。
○ストレスがあるから人は進歩する
さて、体にストレスを生じさせるような外からの刺激(正しくはストレッサーと言う)のこともストレスと言っています。体のゆがみであるストレスは困りますが、この外から加わるストレスは、大切なものなのです。
仕事にせよ勉強にせよ、ストレスは起こります。それを乗り越えようと、頑張ったり工夫したりすることで、私たちは進歩しているのです。運動というストレスを体にかけるから、筋力がつき、骨も丈夫になり、体の働きも高まるのです。つまり、外からのストレスにまけないようにと努力し調整するから、人間は進歩し成長するのです。
よく、「ストレスを避けるように」と言われますが、これは逆です。外からのストレスに対しては、積極的に立ち向かい、それを解決するように努力することが大切なのです。このストレスを解消できずにためてしまうと、体にゆがみが生じ、体調をくずしたり病気になったりするのです。
○ストレスはどうして生活習慣病を起こすのか?
さきほどの、山道でイノシシに出会ったときのことを考えてください。逃げるか戦うか、いずれにしても全身の筋肉や臓器は酸素と栄養を必要としますから、それを送るために心臓はドキドキと速く打ち、血圧を上昇させます。血液中には糖分や脂質などの栄養分をふやします。活動するときに働く交感神経も緊張が高まります。
私たちが仕事に取り組んでいるときは、イノシシとにらみ合っているのと同じで、身構え、緊張しています。そして、仕事が終わって家に帰れば、ほっとして緊張もゆるんできます。ところが、家庭内にトラブルや心配事があったり、職場や仕事のことを家に帰ってまで考えていると、いつまでも緊張状態が持続してしまいます。すると、ストレス状態になってしまう、つまりストレスがたまってしまうのです。
その結果として、血圧の高い状態が続けば高血圧です。血液中の糖分がふえたままでいれば糖尿病、脂質がふえれば高脂血症です。交感神経の興奮が続くと、不眠、頭痛、肩こり、食欲不振、イライラ、胃・十二指腸潰瘍、下痢、便秘、腹痛などの自立神経失調症と言われる病気が起こります。狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの発作を起こす引き金にもなるのです。そうした緊急状態では免疫力も低下しますから、ガンが広がったり、感染症にもかかりやすくなります。
○体に起こるストレスを予防する法
(1) | 職場や家庭にストレスの原因となるトラブルがあれば、それをとりのぞきましょう。 |
(2) | ストレスになるようなトラブルがあっても、それは自分が人間的に成長する糧になるのだと感謝すれば、ストレスがたまることはありません。 |
(3) | 適度な運動は、精神的ストレスを解消します。しかし、勝負にこだわったり、むりな激しい運動は逆効果。 |
(4) | アルコールは精神的緊張をときほぐし、ストレス解消に役立ちます。しかし、飲み過ぎはストレスのもと。 |
(5) | 趣味をもって打ち込むことは、ストレスを解消します。 |
(6) | 働くときには心身ともに緊張し、仕事を離れたらリラックスして休養する。 |
C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎