10月のコラム
魚を食べて元気に長生きしよう!


○魚を食べるとスタミナがつく
 前号で、魚の油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)に、動脈硬化や血栓ができる病気を予防する働きがあるとお話ししました。さらに、魚の油にはスタミナ増強作用のあることが、最近の研究で明らかにされています。
 順天堂大学健康科学部の沢木啓祐教授らは、同大陸上競技部の箱根駅伝選手14人に、このEPAとDHAを4ヵ月にわたって与え、1万メートル走の記録を調べました。これを、EPAとDHAをとっていない前年の記録と比較してみました。 その4ヵ月間の記録の伸びを比較してみると、EPAやDHAをとった年は、全選手の平均が51秒以上短縮しているのに対して、前年は約5秒しか短縮していませんでした。この結果、EPAやDHAを含む魚の油には、長距離走の記録をよくする働きのあることが確かめられたのです。実は、リレハンメル冬季オリンピックで好成績をおさめたノルウェーの選手たちがEPAやDHAを摂っていたそうで、それを知った沢木教授が試してみたのです。EPAやDHAの作用で毛細血管に酸素が十分に行きわたる為であろうと説明されています。 肉食はスタミナをつけると言われますが、長距離走のスタミナについては、魚のほうがすぐれているようです。

○魚に含まれるタウリンが高血圧や動脈硬化を予防する
 魚の効用は油だけではありません。魚は肉類などと同じくすぐれたタンパク質食品なのです。さらに肉類にはない特徴として、アミノ酸の一種のタウリンが多く含まれています。このタウリンにはいろいろな効用があるということで、最近、注目されています。
 その第1が、血圧を下げる作用です。タウリンは自律神経に作用して交感神経の興奮を鎮める働きがあり、それによって血圧を下げるものと考えられています。また、その作用によって、ストレスの害も防ぐと言われています。
 第2は、血中コレステロールを下げる作用です。血液中のコレステロールが多くなると、それが血管壁にたまって動脈硬化をすすめ、心臓発作や脳卒中の原因になります。タウリンには脂質代謝を高める作用があって、脂質の1つであるコレステロールが血液中に増えるのを防ぐものと考えられます。また、タウリンには心臓の筋肉の働きを活性化する作用があると言われ、運動中の心臓発作を予防するという報告もあります。 この他、タウリンには、肥満者や大酒飲みに見られる脂肪肝という肝臓病を改善する、コレステロールが固まってできる胆石の予防にも役立ちます。また目の働きをよくするといったこともわかっています。

○まるごと食べられる小魚がカルシウムを補給する
 年をとるとカルシウムの吸収や利用が悪くなり、骨がもろくこわれやすくなっていきます(骨粗しょう症)。更年期以降の女性は、ホルモンの関係でそれが特に著しいのです。このため、骨折をしたり、関節をいためたりしますし、その治療で入院しているうちに、ボケが始まったり、そのまま寝たきりになる例が少なくありません。 カルシウムは骨や歯の材料になるほか、筋肉の収縮や神経の伝達にも重要な働きをしています。動物実験で、ネズミをカルシウム不足の状態で育てると、凶暴になってくるそうで、精神安定作用もあるとも言われています。校内暴力など子どもたちの情緒不安定も、カルシウム不足が一因という専門家もいます。そうした、脳や神経のはたらきのためにも、カルシウムが不足しないようにしましょう。
 このようにたいせつな働きをしているカルシウムですが、これを補給するには、骨ごと食べられる小魚が役立ちます。しらす干し、ごまめ、わかさぎ、めざし、まる干し、ししゃもなどを、頭からまるごと食べると、カルシウムとともにその吸収をたすけるビタミンDも摂取できます。さらに、他のビタミン類やミネラルも摂ることができます。
 我が国が世界一の長寿国になったのに、魚をよく食べる習慣が大きく寄与しています。健康と長寿をもたらしてくれる魚を、もっともっと食べるようにしたいものです。そして、魚の内臓や血合、皮の部分には、ビタミンやミネラル、EPAやDHAを含んだ油など、栄養分がたっぷり含まれていますから、残さず食べるようにしたいものです。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎