8月のコラム
ビールを上手に飲んで、夏を健康に過ごそう


○ビールの飲み過ぎは心筋梗塞や脳梗塞の原因
 1日の仕事を終えて、冷えたビールをグイッとやる楽しみは、何ものにも代えがたいものがあります。渇きをいやし、心身の疲れを吹きとばし、明日への活力がわいてきます。医学的にも、1日に大びん1本くらいのビールは、心臓病や脳卒中の予防に役立つことが、研究で明らかにされています。 しかし、飲み過ぎると、翌朝は二日酔いで頭がガンガン、胃はチリチリ痛み、おなかこわしでトイレ通い、そして肝臓も悲鳴をあげています。それだけではありません。心筋梗塞や脳梗塞の発作を引き起こす危険もあるのです。
 アルコール、特にビールには利尿作用があるので、たくさん飲むとおしっこがどんどん出てしまって、水分を補給しているつもりが、逆に水分不足になります。加えて、アルコールが分解されるとエネルギーを生じますから、あつくなって汗をたくさんかきます。酔っぱらってそのまま眠ってしまうと、翌日の夜明けごろには脱水状態になります。そのため、血液はかなり濃くなって、固まりやすくなっています。血液が固まって心臓の冠状動脈を詰まらせれば心筋梗塞ですし、脳の血管を詰まらせれば脳梗塞です。夏の明け方、前夜大酒を飲んだ人が、心筋梗塞や脳卒中の発作を起こす例がよくあるのです。「酔い覚めの水、下戸知らず」と言いますが、お酒をたくさん飲んだあとは、体が水分不足状態になっているので、のどが渇いて水がおいしいのです。これはまた、血液が濃くなっていて、脳卒中や心臓発作の危険状態と言えます。飲み過ぎに気をつけるとともに、飲んでしまったあとには、水分を十分に補給しておきましょう。

○痛風(高尿酸血症)の人はビールに要注意
 ビールの飲み過ぎは、痛風の予備軍である高尿酸血症を悪化させますし痛風発作の引き金になることもあります。痛風というのは、足の親指などに激しい痛みを起こす病気ですがこれは血液中に尿酸という物質が増加する高尿酸血症から起こります。高尿酸血症は痛風の原因になるだけでなく、腎臓病や糖尿病を引き起こしますし、動脈硬化をすすめて心臓発作や脳卒中の原因にもなります。
 ビールを飲むと、どうして痛風や高尿酸血症によくないのでしょうか。まず、アルコールが分解されてエネルギーを生じるときに、体内で尿酸が作られます。また、アルコールが分解される過程で生じる乳酸は血液を酸性に傾けますが、血液が酸性になると腎臓から尿酸が排泄されにくくなるのです。そのうえさらに、ビールには尿酸の原料になるプリン体が、ほかのアルコール飲料に比べて圧倒的に多く含まれているのです。主なアルコールのプリン体含有量は、ビール大びん1本で32.4mg、日本酒1合で2.2mg、ワインはグラス1杯で1.0mg、ウイスキーや焼酎などの蒸留酒はごく微量しか含まれません。ビールを大びん1本飲むと、1時間後には血清尿酸値が平均で1mg/dlは上昇するとされます。
 痛風は、王様病とも言われ、大食家で大酒飲み、特にビールの好きな人に多く見られます。これはビールの害とともに、肉類などのご馳走をどっさり食べてプリン体をたくさんとりますし、肉類のために体が酸性になるためです。これを予防するには、ビールの飲み過ぎをしないようにするとともに、体をアルカリ性にする野菜類を多くとることがたいせつです。野菜をたくさん食べれば、肉類などのご馳走を食べる量が減りますし、体がアルカリ性になって尿酸の排泄が高まるからです。痛風発作は夏に起こりやすいので、高尿酸血症の人は気をつけてください。

○栄養バランスの偏りに気をつけよう
 暑いときは食欲もなくなり、さっぱりしたもので食事をすませてしまいがちです。そのうえ、ビールをたくさん飲んできちんと食事をしないと、栄養が不足したり偏ったりします。これが夏バテの一因にもなります。アルコール飲料は食欲増進の作用があります。しかし飲みすぎれば逆効果で、ビールであれば大びん1本くらいにとどめておくようにしたいものです。ビールを飲んで食欲が出てきたところで、栄養バランスのとれた、野菜たっぷりの食事をしましょう。ビールのおつまみとしては、アルコールの処理に必要なビタミンB群と、肝臓を守るタンパク質の豊富な食品がすすめられます。レバー、枝豆、豚肉、ウナギなどや、ビタミンBの利用を高めるニンニクを使った料理が適しています。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎