4月のコラム
健康のために「塩」は減らした方がいいの?


○塩が高血圧に悪いというのは、うそ? 本当?
 塩は高血圧の重要な原因であると言われ、高血圧になると減塩するようにと指示されます。しかし一方で、塩を摂ると血圧が上がるのは遺伝的素因を持っている人であり、素因がない人が塩をいくら摂っても高血圧になることはないという意見もあります。それが証拠に、減塩だけで血圧の下がる高血圧患者は2-3%に過ぎないというのです。この話を聞いて、減塩食でつらい思いをしている高血圧の患者さんが、大喜びをしたのです。医師から、塩を減らしなさいと言われても、それを守らない患者さんが増えました。
 この意見にも一理ないわけではありませんが、だからと言って、その素因がなければ、塩をたくさん摂っていいとは言えません。まず、素因の有無にかかわらず、塩を大量に摂れば誰でも血圧が上昇します。そして、少量の塩でも血圧の上がる人と、たくさん摂っても上がりにくい人とがいますが、はっきり2つに分かれるわけではなく、その中間の人もいろいろいるのです。素因が中くらいの人では、ある程度塩を摂っても、それだけでは高血圧にはならないかもしれませんが、別の高血圧の危険因子、例えばストレスが加わると、それがために高血圧になることもあるのです。
 高血圧の患者さんの中で、減塩だけで血圧が下がる人が少ないのは確かです。しかし、1日6gに制限をすると、患者の20-30%に降圧効果が見られるという報告もありますし、減塩だけでは血圧が下がらない人でも、降圧剤を使うときにあわせて減塩を行うと、血圧が下がりやすくなり、降圧剤の使用を少なくすることができます。高血圧の治療や予防には、やはり減塩が必要なのです。

○塩は心臓発作や脳卒中、胃ガンの原因になる
 塩の害は高血圧だけではありません。塩をたくさん摂ると、脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなるとも言われます。脳梗塞は脳の血管が、心筋梗塞は心臓に酸素と栄養を供給している血管がつまるために起こります。この病気は動脈硬化が進行している人に起こりやすいのですが、塩をたくさん摂って血中のナトリウム濃度が高くなると、血液が固まりやすくなる(血小板凝集能が高まる)ものですから、血栓(血の固まり)ができて、細くなっている血管をつまらせることになるのです。
 塩の摂取量の多いところほど、胃ガンの発生が多いことが分かっています。たとえば、胃ガンによる死亡率がいちばん高いのが秋田県で61.1(人口10万対)、以下、新潟、富山、山形、鳥取がワースト5であり、いずれも塩の摂取量の多い地域です。それに対して、死亡率が低い方のベスト5は、沖縄、熊本、埼玉、神奈川、鹿児島の順です。いちばん低い沖縄の胃ガンの死亡率は16.7で、次に低い熊本(33.6)の半分以下ですから、沖縄の人は極端に胃ガンが少ないのです。そして、食塩の摂取量は、ほとんどの都道府県が12gを超えているのに、沖縄だけが約8.5gですから、これまた飛び抜けて少ないのです。
 ですから、高血圧の素因の有無にかかわらず、脳卒中や心臓発作、胃ガンの予防のために、塩の摂り方を少なくしたいものです。京都大学の家森幸男教授の研究調査によると、塩の摂取量と寿命は逆比例することがわかっています。日本一の長寿県である沖縄は塩の摂取量がいちばん少ないし、塩の摂取量が多い県ほど、県民の平均寿命が短いと報告しています。また、人間というのは、いつなんどき、どのような病気にかかるかわかりません。 腎臓病、心臓病、肝硬変など、むくみを伴うような病気では、かならず食塩の制限が必要になります。そのときになって、急に塩を制限するのはとてもつらいことですから、日ごろから塩の少ない食事になれておくといいのです。

○塩の摂取をへらすための7カ条
(1)濃い味噌汁、塩辛い漬け物、塩鮭、いかの塩辛など、塩辛いおかずでご飯という食べ方はやめて、薄味のおかず中心の食事にする。
(2)昆布、椎茸、かつお節、煮干しなど、だしを上手に使うと、薄味でもおいしく食べられる。
(3)酢のほか、ゆず、すだち、レモンなどのしぼり汁の酸味を、塩味代わりに利用する。
(4)いろいろな香辛料や、香りの強い野菜を利用すると、塩味の薄さをカバーできる。
(5)野菜や海藻をたくさん摂る。食物繊維やカリウムが塩の害をへらしてくれる。
(6)加工食品には食塩が多いので、摂りすぎないように。
(7)外食は塩分が多いので控えめに。ラーメンやおそばの汁は残す、醤油やソースはむやみにかけない、などの注意も大切。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎