1月のコラム
健康に役立つお酒の飲み方


○ほんとうに「酒は百薬の長」だろうか?
 年末年始はお酒を飲む機会が多くなります。呑ん兵衛たちは、「酒は百薬の長」ということわざを口実に飲み続けていますが、なんとこの言葉は、今から1500年以上も昔の中国の国営酒造所のCMコピーだったそうです。
 百薬の長とはよく言ったもので、お酒はたしかに利点がいくつかあります。
 まず、適量のアルコールは大脳の動きを程よくマヒさせ、精神的なストレスを解消してくれます。同時に肉体的な緊張もほぐれ、心身のストレスによって起こる病気や症状の改善に役立ちます。「酒は憂さを払う玉箒」ということわざのとおりです。
 アルコールは血管を拡張して全身の血液循環をよくします。臓器や組織の新陳代謝が高まりますから、疲労を回復し、若返りや美容の効果もあります。さらに、血液循環がよくなれば、血管壁の汚れを洗い流し、血管の弾力を保ちますから、高血圧や動脈硬化を防ぎ、心臓病や脳卒中の予防にも役立ちます。その他、食欲を増進する、不眠を解消するなどの効用もあります。

○飲み過ぎがもたらすアルコールの害
 年末  酒が薬になるのは適量を飲んでいるうちで、過ごせば「気違い水」とか「命をけずる毒の水」となります。酒の飲みすぎの害としては、肝臓障害とアルコール依存症(いわゆるアルコール中毒)がよく知られています。それ以外にも、脳が障害され、ボケの原因にもなり、精神障害(コルサコフ病やウエルニッケ脳症など)をきたすこともあります。
 大酒のみに膵炎などの膵臓の病気が多く、強い酒を飲む人に食道がんが多いこともわかっています。「一気飲み」などで短時間に大量のお酒を飲むと、脳や神経が麻痺して急性アルコール中毒になり、死にいたることもあります。また、飲み過ぎは胃粘膜を傷めます。「人酒を飲み、酒酒を飲み、酒人を飲む」と言います。酒は飲むほどにブレーキが効かなくなる事実を述べた名言です。ストレスの多い現代社会では、お酒という妙薬も必要です。毒にしない範囲にとどめておきたいものです。

○アルコールの適量はどのくらい?
 肝臓のアルコール処理能力は、1時間に6〜9gとされます。日本酒1合のアルコール量は26g前後ですから、これを処理するには3時間〜4時間半かかります。翌朝までにアルコールの分解を終わらせるには、2〜3合以内にとどめなくてはなりません。一方、肝臓を傷めたり、いわゆるアルコール中毒になった人を調べると、そのほとんどが1日3合以上飲んでいて、3合以下であれば障害を起こす確率が非常に低いことがわかっています。アメリカでの調査によると、日本酒にして1日1合くらいのアルコールを飲んでいる人は、狭心症や心筋梗塞を起こしにくいという結果も出ています。
 これらを総合すると、1日1合くらいの晩酌は、健康増進・成人病予防に役立ちますが、量が多くなるにしたがってプラス面が少なくなり、3合までが限度と言えるようです。できれば1日1合にして、過ごしても、安全を見込んで2合までにとどめたいものです。ちなみに、日本酒1合のアルコール量は、ビール大びん1本、ウイスキーW1杯、焼酎半々のお湯割りでコップ1杯、ワインはグラス3杯半に相当します。

○お酒を薬にするのみ方7か条
(1)適量を守ること....飲みすぎないことが、何よりもいちばんたいせつです。
(2)楽しみながら飲みましょう....家族や友人と楽しく語らいながら、お酒の味や香りと料理を楽しみながら、ゆっくり飲みましょう。やけ酒、うさ晴らしの酒、眠らんがための酒は、適量オーバーの原因になります。
(3)強い酒は薄めてゆっくり飲みましょう....ウイスキーや焼酎などは水割りやソーダー割り(ハイボール)」、お湯割にして、ゆっくり飲むのが安心です。
(4)さかなをつまみながら飲みましょう....空きっ腹で飲むと、吸収が早く悪酔いします。酒だけ飲んで何も食べないのは、栄養が偏っていろいろな障害を起こします。
(5)タンパク質とビタミンB1の豊富な食品をつまみに....アルコールの分解・処理にはタンパク質とビタミンB1がたいせつ。それらの豊富な肉類、レバー、魚介、チーズ、卵、豆製品などをさかなに飲みましょう。
(6)酔いざましには水分補給を十分に....アルコールは利尿作用があって、体の水分が失われますから、飲んだ後には水分補給を十分に。果物は水分、ミネラル、ビタミンなどを補給するし、果糖はアルコールの分解を促進しますから、酔いざましに好適です。
(7)週に1〜2日の休肝日を....お酒をよく飲む人は、体内からアルコール分がなくなる日をもうけることがたいせつ。できれば週に2日はアルコール休日をとりましょう。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎